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製品写真の著作物性が認められた事例 (弁護士 寺中良樹)

近時、2020年東京オリンピックのエンブレムを制作したデザイナーや、大会組織委員会が、他人の画像を無断使用してプレゼンテーション資料を作成していたことが、問題となりました。
これは、法律的に言いますと著作権法の問題で、問題となった画像は、どれも被写体や構図に工夫があるもののようであり、無断使用が著作権の侵害であることには、それほど異論はなさそうです。
しかし、どのような写真画像でも、無断使用すると著作権の侵害になるのか、といいますと、そうではありません。著作権法2条1項1号では、著作権法によって保護される「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうとしています。つまり、著作権法で保護される「著作物」というためには、創作者の個性が何らかの形で表現されているという意味での、創作性が必要です。過去には、平面的な版画作品を紹介するための写真について、著作物性を否定した裁判例があります(東京地裁平成10年11月30日判決「版画辞典」事件)。

この点に関して、今年に入って、製品写真の著作物性が認められた裁判例(東京地裁平成27年1月29日判決判時2249号86頁)が現れましたので、ご紹介します。
本件は、ヨーロッパ発祥の人気家具店「イケア」の買物代行事業を行っていた者が、そのウェブサイト上で、「イケア」のウェブサイトに掲載されているものと同一の商品写真データを使用したことについて、「イケア」が著作権侵害に基づく差し止め請求などを行った事案で、製品写真データの著作物性が、争点の一つになりました。
この点について、判決では、次のように判示されています。

(以下、判決の引用)

原告各写真は、原告製品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく、背景が白であるなどの特徴がある。また、被写体の配置や構図、カメラアングルは、製品に応じて異なるが、原告写真A1、A2等については、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし、原告写真A9、A10、H1ないしH7、Cu1、B1、B2、PB1については、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により、原告各写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、原告製品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては、被告自身も、「当店が撮影した画像を使用するよりは、IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが、商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上、お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」(甲34、被告本人)と述べているところである。
そうであるから、原告各写真については創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認められる。

(以上、判決の引用)

要するに、これらの写真については単に製品を撮影したというだけでなく、撮影の仕方に工夫があるから、創作性が認められる、ということのようです。
判決文だけではわかりにくいので、裁判所ウェブサイトに掲載されている実際の製品写真
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/881/084881_option1.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/881/084881_option2.pdf
をご覧いただきたいのですが、いかがでしょうか。個人的な感想としては、確かにかなりの工夫がされている写真もあるのですが、中には普通に製品を正面から撮影しただけの写真も混じっているように思います。本件は、「この程度の創作性でも、著作物として認められる」という意味で、参考事例となると思います。本件は、被告が本人訴訟であったようですが、代理人が就任して主張を工夫すれば、少し異なる結論があったかも知れません。

本件判決の判断は、インターネット上の仮想店舗を運営する事業者にとっては、相当に影響があると思います。メーカーや販売元のみならず、仮想店舗の運営者から、「他の店が自分のサイトのコンテンツを盗用している。」とのご相談が、よくあります。他の店のサイトのコンテンツを無断使用することは、商道徳に反することはもちろんですが、この裁判例の判断によると、かなり広い範囲で、著作権法違反の問題にもなる、と言えそうです。

以上

 

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